我が国における中小企業の創業者社長が高齢化してきているのは周知の事実です。60歳代は当たり前、70歳代や80歳近くになっても現役で社長を務めていらっしゃる会社もあります。景気が上向きになってきたとはいえ、中小企業を巡る人材難が解消されているようには見えませんし、後継者ともなるとそう簡単に見つかるものではありません。また、社長からすると、高齢になっても取引先との関係は自分が築いてきたという自負もあって、なかなか後身に譲れない事情があります。また、仮に子供が後継者として社内にいても、なかなか父親である社長に自分に早く地位を譲って欲しいと言い出せずに、中途半端な状態がずるずる続いている会社を見かけます。

このような高齢の社長が金融機関(銀行、証券会社など)窓口となって銀行印を管理している場合、会社にとって重大な契約が高齢の社長の一存で行われてしまい、あとで取り返しのつかない事態に陥ることがあります。例えば、長年にわたる取引先の金融機関の担当者が頻繁に会社を訪問し、社長室で2人だけで社長と何時間にもわたって話し込んでいたというケースが実際にありました。そして、その社長は銀行員に頼まれて他の人に相談もせずに仕組債や為替デリバティブ取引といったハイリスク商品に手を出してしまい、会社に非常に大きな損害を与えてしまったのです。

社長業は本来的に孤独な業務である上、だんだん高齢になってくると、社内に話し相手になってくれる人もいなくなってしまうことがあります。そうすると、自分の話を聞いてくれる人だと、つい気を許してしまいがちです。金融機関の担当社は自分のノルマ達成のために何時間にもわたって社長の話し相手になっているのですが、社長の方は元々金融機関の担当社のことを信用していますし、熱心に話を聞いてくれる姿を見て、つい相手の話を信用してしまうのです。仕組債や為替デリバティブ取引は、複雑・難解で、高齢の社長が1回や2回話を聞いて理解できるような商品ではないのですが、見栄が邪魔をして「分からない」と言えないまま、契約締結に至ってしまうのです。

会社法上、会社にとって大きな影響を及ぼす重要な契約は、取締役会にかけて意思決定を行うことになっています。しかしながら、中小企業において、実際に取締役会を開催して意思決定を行うケースは非常に少ないでしょう。例えば、役員全てが家族になっている場合、家長である父親の一存で会社の重大事項が決められることは少なくないでしょう。しかしながら、高齢の社長が、取締役会にも諮らずに、他の取締役も全く知らないところで、ハイリスクな契約をさせられてしまうことは大変恐ろしいことです。会社にとって致命傷にもなりかねません。

中小企業の社長とお話させていただくと、昔お世話になったからという理由で金融機関(銀行、証券会社など)のことを大事に考えていらっしゃる方も少なくありません。しかしながら、10年以上前と現在では金融機関の商売も大きく変わっています。金融機関(銀行、証券会社など)もお金を貸すだけの存在ではなく、金融商品等を販売して手数料を取るビジネスに変わってきています。これからは、中小企業の側が「金融機関対応力」を上げていく必要があります。

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