被害の実態

証券会社が顧客の保有する証券を次々と売ったり買ったりすることで多額の手数料収入を稼ぐ手法を回転売買といい,このような手法は「過当取引」という違法類型に属する可能性があります。

ここ数年,銀行系証券会社や大手証券会社や外資系証券会社は,新興国通貨(トルコリラ,ブラジルレアル,南アフリカランドなど)に連動した仕組債のロール取引(仕組債から仕組債への乗り換え)で手数料収入を稼いでいますが,仕組債を取り扱っていない証券会社は,株式取引の回転売買で手数料を稼いでいる傾向があります。株式取引の回転売買も,国内株式の現物及び信用取引だけでなく,外国株式の場合もあります。また,株式の銘柄も東証1部,2部上場銘柄だけでなく,マザーズやジャスダックといった新興市場銘柄の回転売買が行われていることもあります。

そして,調べてみると,顧客が被った損失の殆どが証券会社に支払った手数料であったというケースもあり,そのようなケースでは証券会社が顧客を手数料収入を稼ぐための道具にしていたのではないかとの疑いを感じます。

平成31年4月24日付日本経済新聞朝刊でも,準大手証券会社が金融庁から回転売買で指摘を受けたとの記事が掲載されていました。

「過当取引」は,米国のチャーニング理論が日本に導入されて以降,日本の判決例上でも違法類型と定着しています。そして,「過当取引」に該当するためには,①取引の過当性,②顧客口座の支配性,③悪意性の3要件を充足することが必要と言われているのですが,①及び②が認められれば③は推定されるので,実際上は①及び②があるかが重要になってきます。その中でも特重要なのが①の要件で,①の要件を充足しているかは,顧客資金の年次回転率(顧客の資金が年間で何回転しているか),手数料化率(顧客の損失金額に対する手数料金額の割合),証券の保有期間などを調べることである程度判断できます。

 

被害回復の方法

  •  取引内容を調査する

「過当取引」か否かは,全体の取引内容を調査しないと分かりません。顧客は証券会社に勧められるままに取引しているので,自分でもどのような取引を行ったか分かっていないことが多いので,顧客勘定元帳(信用取引を行っている場合には信用取引顧客勘定元帳も)を入手して,取引内容を調査します。

顧客勘定元帳に基づいて取引一覧表を作成すると,買付及び売付(信用取引の場合は新規建てと決済)を突き合わせて個別取引の損益,全体損益の推移,個別及び全体の手数料金額,個別銘柄の内容(1部ないし2部上場銘柄か新興市場銘柄か),同一銘柄の売買の回数,個別銘柄の保有期間(日計り取引のような短期売買の割合がどれ位か),乗り換え売買の多寡,短期損切り決済や顧客の利益より証券会社の手数料の方が多いような経済的合理性を欠いた取引がどの程度あるのかなどが分かります。このような調査は,全て顧客勘定元帳という客観的な証拠に基づいて行い,結果は数字として算出できるので,計算内容が正しい限り,誰も否定できません。よって,数字的に取引の過当性が立証でき,顧客の属性や取引の経過から,証券会社主導で,すなわち殆どの取引が証券会社からの勧誘に基づくとか,顧客が証券会社からの勧誘を殆ど拒否しないで応じていたなど,口座支配性も認められると判断できる場合,法的手続きで被害回復を図る方法を検討すべきです。

  •  民事訴訟を提起する

法的手続きとしては,金融ADRの申し立てか民事訴訟になると思います。

しかしながら,過当取引を理由に金融ADRで大幅な被害回復を図ることは

難しいと思いますので,民事訴訟を提起することを考えるべきです。回転売買は,証券会社の営業担当者から電話での勧誘で行われることが多いので,裁判において会話録音は重要な証拠になります。会話録音で,営業担当者からの勧誘の電話が殆どで,顧客が自分から積極的に注文しているのではなく,「はい」とか「うん」などと相槌を打つ程度であれば,口座支配性の立証にも役立ちます。