金融・証券取引被害の実態と問題点

約20年間、金融・証券取引紛争を取り扱ってきましたが、金融・証券取引被害の実態は10年前と大きく様変わりしています。
特に、仕組債、為替デリバティブなどのデリバティブ商品が機関投資家(プロ)ではない一般投資家(アマ)に大規模に販売され、為替の変動や株価の変動で非常に大きな損失が発生しています。

 

証券会社だけでなく、銀行がハイリスク商品を販売

また、業態で言うと、かつてはリスク商品の販売は証券会社に限られていましたが、最近はむしろ銀行が主体となって販売しています。
すなわち、銀行が系列の証券会社を通じて仕組債を販売したり、銀行本体が為替デリバティブ商品を販売したり、高齢者に投資信託の回転売買などを行っています。特にメガバンクが銀証の垣根が低くなったことに乗じてハイリスク商品を販売しています。

優良な中小企業や個人富裕層が金融取引の被害に

その結果、かつては高齢者や社会的経済的弱者がターゲットになっていた金融・証券取引被害が、優良な中小企業や個人富裕層にターゲットが変わってきました。一昔前の金融証券取引紛争の場合、中小企業や個人富裕層が訴えても適合性原則違反や説明義務違反を認めてもらうのは困難でしたが、最近のようにハイリスクな仕組商品(外国で言うと「構造化された金融商品」)が取引所を介さずに相対取引で販売されるようになると、中小企業や個人富裕層といった資金力がある程度ある顧客であっても適合性を欠いていたり、十分な理解力や判断力があるとは言えず、説明義務違反が認められるケースが出て参りました。

 

大手銀行や大手証券会社相手でも、泣き寝入りする必要はありません。

問題の1つは、大手銀行や大手証券会社相手では、多くの企業様が泣き寝入りしてしまうことです。しかし、実際には泣き寝入りする必要はないのです。
実際に当事務所で扱ったケースで次のような事例がありました。
ある方が外資系の証券会社で複雑な金融商品を購入させられ、多額の損失を被りました。その方は、取引段階で、説明書の内容を確認して商品内容を理解した上で自己の責任と判断で取引を行う旨が明記された投資確認書に署名押印していました。そのため、その方は自己責任と考えて泣き寝入りするつもりだったですが、偶々、私が顧問を務める会社の社長とお知り合いで、雑談の中で、一度相談してみてはどうかということなり、私の事務所にいらっしゃいました。
私は、その方の属性(年齢や過去のご職業等)と当該金融商品の内容を見て、とてもその方が内容を十分に理解した上で購入したとは思えず、訴訟提起をお勧めし、結局、訴訟上の和解にて、損害金額の7割強の金額を取り戻すことができました
一般に、商取引の世界では、契約書に署名押印した以上、自己責任と考えられていますが、それは対等な立場の方同士が契約された場合の話です。
しかしながら、金融機関と顧客との間では、情報量や判断力、理解力に圧倒的な差異があるので、そのような不公平を是正するため、金融機関に厳しい規制が課されています(適合性原則、説明義務など)。裁判所も、投資確認書や契約書に記載されているからといって、それだけでそこに明記されている事項について全て自己責任とは判断していません。
より実質的に、その顧客に当該金融商品を勧めた行為が適切であったか否か、商品内容を十分に理解させるだけの説明があったか否かで判断しているのが実情です。

 

金融・証券取引被害の解決に精通した弁護士が少ないことも問題

このように、最近の金融・証券取引被害の傾向に照らすと、従来のようなやり方では救済されないケースが出てきています。
従来ですと、資金力もあって取引経験が豊富な場合、金融機関に違法性を認めてもらうのは難しいと思われていました。しかしながら、最近の判決例の傾向に照らすと、資金力のある中小企業や事業者、医者、資産家、元上場企業の社長といった属性の顧客でも、金融機関の違法性が認められるようになりました。
よって大事なのは、資金力があるか、投資経験が豊富かといった従来重視されていた事情ではなく、実際に取引した金融商品の内容は何か、どのようなリスクが内包されているか、商品の問題点は何か、説明書や目論見書にどのような説明がなされているか、その程度の説明で十分なのか、どのような経緯で取引したのかなどといった事情が重視されるようになってきました。

しかし、問題はこのような金融・証券取引被害の解決に精通した弁護士は極めて少ないのが実態です。
相談者は日本を代表するような金融機関と闘える弁護士に依頼したいと思っています。個人の方であれば、簡単に弁護士を見つけることも難しいですし、ましてや一生に1回あるかどうかの問題を解決するのに適任な弁護士を見つけることは非常に困難を伴います。金融機関側の弁護士は、同種事件を多数こなし、金融機関からの助言や資料の提供も受けられる極めて恵まれた環境で仕事を行っています。またこの種の事件では、情報や資料も金融機関側に偏在しています。
そのような不利な状況の中で、自分が選任する弁護士に、同種事件の経験が全くなく(あるいは極めて乏しく)、相手方金融機関にどのような情報や資料があるのかも分からず、訴訟においてどのような反論、反証が出てくるか予想もできないような状況では、「最初から勝負に負けている」と言わざるを得ないのです。

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