過日、クレディ・スイスはAT1債について無価値化する旨を発表しました。このAT1債は、国内でも証券会社や金融商品仲介業者を通じて個人投資家に販売されており、中にはAT1債の仕組みやリスクについて正しく理解していないまま購入し、多額の損害を被っている方々がいます。
 クレディスイスAT1債が無価値したのは、スイス特有のAT1債に含まれていたトリガー条項が発動したからと言われています。具体的には、一般に、AT1債にはCET1比率が所定の数字を下回るとトリガーが引かれる条項が設定させていますが、今回発動したのはViability Evennt(生存条項)と呼ばれる破綻回避のための政府による特別支援措置等と言われています。しかし、当該条項の内容は不明確であり、いかなる場合にトリガーが引かれるかが非常に分かり難くなっています。スイス政府は緊急法令に基づいて特別な公的支援措置を発表したようですが、実際に公的資金が投入されたのか否かも分かりませんし、どのような経緯で緊急法令に基づく特別な公的支援措置が発表されたのかもよく分かりません。
 このように、クレディスイスAT1債は、喩えて言うと、何時、どのような理由で炸裂するか分からない地雷が埋め込まれていた商品ではないかと考えます。このような危険な商品が国内で大量販売された事実には暗澹たる気持ちにさせられます。

令和5年4月21日、金融庁はクレディスイスAT1債の国内販売額について概ね1400億円と発表しました。この金額に外資系金融機関よる国内販売の額も含まれているのかは分かりませんが、国内で大量販売されていた事実が明らかになりました。外資系金融機関が組成した金融商品が、国内の金融機関によって大量販売されて社会問題化したのは、今回に限らず、リーマンショック後の為替デリバティブや近時の仕組み債があります。今回も同じ構図だと私は考えます。
 このような商品を国内で大量販売して多額の手数料収入を得ていた金融機関は、「売り手責任」を果たしていたのでしょうか。金融商品を販売する金融機関は、説明義務等の義務を課せられていますが、一般に周知性を欠く場合やリスクが高い場合にはより重い説明義務を課せられます。今回の事態については、販売した金融機関側ですら青天の霹靂であったとのコメントもあり、一般投資家である個人及び法人顧客がトリガー条項の内容を正しく理解し、トリガーが引かれた場合に無価値化するリスクを認識・理解した上で購入の判断をしていたとは思えません。もし、そのような認識・理解が顧客側にあったなら、総額1400億円もの巨額の金額で大量に販売することが可能だったとはとても思えないからです。
 販売金融機関側の法的責任は、今後、裁判の場で追及することになると思いますが、金融について長い歴史とノウハウに長けた外資系金融機関によって国内の金融資産が奪い去られ、それを国内の金融機関が手助けしている現状を変えない限り、同じことはまた起こるだろうと思います。

 当事務所では、これまで、為替デリバティブ、仕組債、VIXベアといった集団的被害が発生した事件について、金融ADRや民事訴訟で多数の被害回復を図ってきた実績があります。また、所長の本杉明義弁護士は、金融法学会第29回大会にて報告・発表を行い、PHP研究所から「「為替デリバティブ」リスクを回避する方法」を出版しています。

 本件の商品について、証券会社や金融商品仲介業者の販売方法や説明に問題があるとお考えの方は是非当事務所へご相談下さい。