投資信託(ファンド)には,有価証券に投資する投資ファンドと,事業に投資する事業ファンド,商品に投資する商品ファンドがあるが,複数の投資家からの拠出金をまとめて特定の主体が運用するという仕組みは同じです。
これにより,本来的には,小口の資金をまとめて運用が出来る,専門家の運用力を利用できる,というメリットがあるが,一方で専門家と投資家の知識や情報のギャップから,運用主体への監視が及ばず,投資家の利益が犠牲にされる可能性があります。

近時、資産がある高齢者から、出資金を募って被害を追わせる例が急増しています。

また最近、不動産投資信託(いわゆる「リート」)に関して、顧客が集団で販売証券会社を提訴するという事例がありました。
この不動産投信は、仕組み上、運用会社が出資者からの支出金に加えて金融機関からの借入金で不動産運用の資金を賄っており、かつ不動産価格が下落すると、金融機関への払い戻しが優先されるため、真っ先に顧客が損失を被り、損失を被る場合もレバレッジがかかっているため、不動産価格の下落の数倍の損失を被るようになっており、被害が多数かつ多額に及んでいます。

そもそも投資信託は、販売手数料が比較的高く、乗り換え売買を行うと、金融機関に多額の販売手数料が入る構造となっているため、無意味な乗り換え売買が頻繁に繰り返されやすく、不正行為の温床になりやすいとい面があります。

この点を受けて、日本証券業協会も、乗り換え売買の際には手数料等について顧客に十分な説明を行うように規制を設けています。
また,最近の傾向として,投資対象やリスクの程度が非常に分かりにくい投資信託が増えています。以下の具体的なファンドを例に説明します。

 

ファンドA

主な投資対象

マルチセクター債券ファンドとして,マスター・ファンドへの投資を通じて世界中の様々な債券セクターの幅広い信用格付の債券に投資を行います。主な投資対象は,米国政府債等(米国政府債,モーゲージ証券,アセットバック証券,米国投資適格社債など),ハイイールド社債,米国以外の先進諸国債,エマージング債などですが,これらに限定されていません。

参考指標

ファンドのパフォーマンスは,以下の指数と対比されます。
リーマン・ブラザーズ総合債券指数
JPモルガン・グローバル・ハイイールド社債指数
シティグループ非米国世界国債指数
JPモルガン・グローバル・ディパシーファイド・エマージング債指数
(以上「要約目論見書」より)。

このようなファンドを大手金融機関が金融知識のない高齢者に販売している事例が見られます。一般の方々は知らないでしょうが,ハイイールド債やエマージング債は格付けの低い債券なのでリスクの高い商品です。このようなファンドへの投資で多額の損失を被っている事例があります。

ファンドB

世界各国の債券先物取引,株価指数先物取引,金利先物取引,商品先物取引および為替予約取引等を実質的な主要取引対象とし,信託財産の成長を図ることを目的として積極的な運用を行うことを基本とします。
投資する外国投資信託において為替ヘッジ手法の異なる3つのコース(円コース,資源国通貨コース,アジア通貨コース)から構成されています。
各ファンド間でスイッチングが可能です。
マネージド・フューチャーズ戦略
マネージド・フューチャーズ戦略とは,主に世界各国の取引所に上場されている様々な先物取引等を取引対象とし,コンピューター・プログラム等によって取引対象の値動きの方向性を捉え,追随する(トレンド・フォロー)ことによってリターンを獲得しようとする戦略です。ファンドは,マネージド・フーチャーズ戦略を通じて,絶対収益の獲得を目指した運用を行うことを基本とします。
(以上「販売用資料」より)
このようなファンド安定的に収益が挙げられるファンドと称して販売されていますが,実際には基準価格が大きく下落して多額の損失が発生しています。コンピューター・プログラムによる戦略とか,為替ヘッジと聞くと,安定的な収益が見込めるファンドのようにも思えますが,実際にはリスクの高いファンドです。

ファンドC

米国の金融商品取引所に上場されているMLPやMLPに関連する証券を主要投資対象とします。
S&P MLP指数の動きに連動する投資成果をめざします。
MLP(Master Limited Partnership)とは,主に米国で行われている共同投資事業形態のひとつであり,その出資持分が米国の金融商品取引所に上場しているものです。
MLPの多くは,主として,原油や天然ガスなどのパイプラインや貯蔵施設といったエネルギーインフラ関連事業に投資を行い,パイプラインや貯蔵施設の利用料などを収益源としています。
一般の方は,S&P MLP指数といっても何のことか分からないでしょうし,実際に基準価格が大きく下落して多額の損失が発生しています。
「ファンド」というと,プロが運用する金融商品なので,株式等のリスク商品と比較して「安全,安心」といったイメージがあるかと思いますが,上記ファンドの例からも分かるとおり,どのような事象が起きるとリスクが顕在化するのかが分からず,リスクが高い商品もあることに注意すべきです。
また「ファンド」は,最近のように株式取引等がインターネット取引に流れている中,対面販売を主とする金融機関の重要な収益源となっています。よって,金融機関がむやみに「乗り換え販売」を推奨している例が目立ちます。

投資信託(ファンド)に関する判例

(1)投資信託取引について,「単に株式投資信託等といった取引類型における一般的抽象的リスクのみを考慮するのではなく,当該投資信託等の投資方針・投資対象が何かなどの商品特性を,また,リスクの高い商品の場合には,その商品への投資金額,取引資金全体における割合等を,さらに,乗換売買の場合には,その規模・回数・目的・意向(元本重視の取引なのか,値上がり益を見越した積極的な取引なのか)といった内容等を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の顧客の側の諸要素を総合的に考慮する必要がある」と述べて,無意味な反復売買,乗り換え売買を認めた
(大阪地裁平成18・4・26判決)

(2)投資信託の取引で,乗り換え勧誘時には,乗り換えによる利害得失についての具体的な説明が必要であり,さらにナンピン買いを勧める場合は,リスク拡大につながることを十分に説明する必要があるとした上で,担当者主導の下に十分なリスク説明なく取引が行われたとして,説明義務違反を認めた
(大阪地裁平成19・12・25判決)

(3)投資信託の取引で,顧客にリスクを正しく認識させる説明に至っていなかった,投資信託の乗り換えについて,合理性ないし必要性が乏しい取引である等として,説明義務違反,誠実公正義務違反を認めた
(横浜地裁平成21・3・25判決)

(4)いずれもリスクが高い投資信託について,無意味な反復売買を認めて,損害賠償請求を認めた
(大阪高裁平成25・2・22判決)

(5) 「リート」と呼ばれる不動産投資信託について,適合性原則違反を認めた
(大阪地裁平成25・10・21判決)

(6)「ブルベア投信」について,過当取引を理由に損害賠償請求を認めた
(京都地裁平成25・9・13判決)