弁護士の本杉です。
私は、弁護士になって約20年になりますが、仕事の殆どを顧客と金融機関との間の金融商品取引紛争の解決に力を注いで参りました。
今から10年位前までは金融機関(証券会社)側の代理人として仕事をし、その後、事務所を独立して開業してから以降は、金融機関側の仕事もしながら顧客側からの依頼案件も受けるようになり、最近のデリバティブ紛争(為替デリバティブ、仕組債など)は専ら顧客側代理人として訴訟などを手掛けています。
最近、デリバティブ紛争の分野に新規参入する弁護士が多数出て参りました。デリバティブ取引は、予想外の巨額損失が発生し、時には会社が破綻する原因にもなる極めて大きな問題なので、この分野に法律の専門家である弁護士が関心を持つことは社会的に非常に意義のあることだと思います。
しかしながら、中途半端な知識で、単なる金儲けの手段として、この分野を手がける弁護士が存在するのも事実です。そこで、広く依頼者の皆様方に対する啓蒙活動と同時に、中途半端な知識でこの分野の事件を気軽に受任し、敗訴判決などの悪い結果を受けて他の事件やこの分野で一生懸命力を注いでいる弁護士へ悪影響を及ぼしている弁護士への注意喚起という意味を込めて、「弁護士の選び方」を述べたいと思います。
当たり前ですが、弁護士であれば、誰でも良いわけではありません。
弁護士を選ぶ際に、「知人から紹介された」とか顧問弁護士に依頼したという話をよく聞きます。しかしながら、そのように紹介された弁護士や顧問弁護士が自分の案件を担当する弁護士として適任である保証は全くありません。
仕組債やデリバティブ紛争は高度な専門的知識、経験を要する専門訴訟です。金融機関側の弁護士は、同種事件を多数こなし、金融機関からの助言や資料の提供も受けられる極めて恵まれた環境で仕事を行っています。また、この主の訴訟では、情報や資料も金融機関側に偏在しています。
そのような不利な状況の中で、自分が選任する弁護士に、同種事件の経験が全くなく(あるいは極めて乏しく)、相手方金融機関にどのような情報や資料があるのかも分からず、訴訟においてどのような反論、反証が出てくるか予想もできないような状況では、「最初から勝負に負けている」と言わざるを得ません。
私は、これまで、金融機関側の代理人として、あるいはセカンドオピニオンを依頼された弁護士として、顧客側代理人の訴訟活動や記録を多数見て参りました。残念ながら、弁護士選びに失敗して敗訴している事件が多数存在します。我が国では、弁護士が弁護士を訴える、「弁護過誤訴訟」という物が根付いていません。そのため、明らかに受任弁護士の知識、経験不足で敗訴していると思われる事案でも、弁護士が訴えられることはまずありません。その結果、この種の事件の弁護士選びの方法を知らない依頼者の方々が誤った弁護士を選任し、酷い結果を受けて、弁護士に不満を持ち、さらにはこの種の事件では金融機関に勝てないものだとの誤った先入観を持ってしまっているのです。
では、金融・証券取引被害で適任の弁護士をどのように探し、依頼したら良いのでしょうか。
顧問弁護士や紹介がベストとは限らない
まず、弁護士をみつける方法が現在、多種多様になっています。したがって、知人からの紹介や顧問弁護士にお願いするといった従来の方法に頼る必要は全くありません。インターネットでも、この種の事件を手掛ける弁護士は簡単にみつけられます。
同種事件の経験や実績が重要
次に、この点、インターネットは弁護士を見つけるには便利ですが、インターネットの情報が全て正しいとは限りません。訴訟活動は高度なテクニックを要する仕事です。最終的には、裁判官を説得する仕事ですが、適切なタイミングで、適切な準備書面や証拠を提出し、さらには弁論準備を使って粘り強く裁判官を説得していく作業を要します。そのような高度な活動は、それまでの豊富な経験と実績で裏付けされた物でなければ意味がありません。
よく、インターネットのホームページで、「実績多数」とか「豊富な経験」と記載されている例を見かけますが、実際には担当弁護士と面談し、具体的な経験や実績を確認すべきです。特に、勝訴事例がどの程度あるのかが極めて重要です。この種の事件で勝訴判決を獲得するには、書面では表せない微妙なテクニックを要します。そのようなテクニックは、経験に裏打ちされた物でなければ意味がありません。実績多数と言っても、相談件数が多いだけでは意味がありません。
仕組債・デリバティブと商品先物取引、株式取引、投資詐欺は全く異なります
また、これもよく勘違いされている方がいらっしゃるのですが、仕組債やデリバティブ紛争と商品先物取引、株式取引、投資詐欺(未公開株詐欺)とは全く内容が異なります。
実際にあった事例ですが、商品先物取引の裁判を多数手掛けている弁護士に委任したところ、デリバティブは全くの素人であったということがあります。商品先物取引とデリバティブ取引では、内容も争点も全く異なります。デリバティブ紛争では、複雑な金融工学を駆使して商品設計した金融商品の内容と問題点を分析できる能力がなければ務まりません。それを、勝手に同じ金融商品取引紛争だからと言って同視するのは明らかに誤りです。
さきにも述べましたが、この種の案件を扱うには経験が必要です。なぜなら、ただでさえ難しいデリバティブの商品内容や問題点を、素人である裁判官に分かり易くかみ砕いて説明する技術を要するからです。そのような技術は、同種事件を繰り返して受任する中で、試行錯誤の上で身につけることができます。難しい話を難しく説明することは誰でもできますが、難しい話を分かり易く伝えられることが重要なのです。
以上によれば、紹介だけでなくインターネットの情報も収集して、複数の弁護士と実際に面談して、依頼する弁護士を決めるのがベストということになるでしょう。そして、実際に依頼する弁護士は、それまでの経験や実績ベースで選ぶということでなるでしょう。ちなみに、ホームページ上の情報は全くチェックが働いていない点を肝に命ずるべきです。
なお、最近は、着手金無料をウリにした法律事務所も多数あります。
しかしながら、当事務所では、着手金無料では受任していません。
なぜなら、デリバティブ訴訟(為替デリバティブ、仕組債など)は、高度専門的な知識、経験を要する訴訟であり、一般に解決まで1年以上は要し、その間も準備書面の作成や証拠提出、陳述書作成、証人尋問といった時間のかかる作業を逐一懇切丁寧にやる必要があり(しかもその内容は一般化することはできず、個別案件毎に工夫する必要がある)、そうなると受任できる事件数も限られてきて、とても着手金無料では受任できないと考えるからです。