証拠には、人証(陳述書や証人尋問での証言)と物証(客観的な資料)がありますが、裁判官が重視するのは物証です。なぜなら、人証は、記憶違いやウソの証言が入る余地が大きいですが、物証は改ざんや偽造は簡単にはできないので、物証の方が人証より証拠価値が高いと考えられているからです。
よって、民事裁判の場合、自分に有利な物証を確保することが非常に重要になります。物証を確保するやり方としては、民事訴訟を提起する前の証拠保全と、提起後の各種証拠開示制度があります。

まず、証拠保全は、裁判所の決定を経て、実際に、証拠の存在する現場に弁護士と裁判官が出向いて証拠を確保するやり方です。
 ただし、保全の対象となった証拠について、金融機関側は強制的に提出を命じられるわけではないので、現場で、証拠のあるなしや出す出さないで揉めることが多い手続です。証拠保全の現場で行われたことは検証調書という裁判所が作成する書面に残されますので、例えば存在する証拠をないと言ったり、提出を拒むと、後の裁判に悪影響を及ぼすことになります。

訴訟提起後の物証の確保は、文書提出命令の申し立てを中心した証拠開示制度を利用します。
 ただし、我が国の場合、米国のような証拠開示制度が進んでおらず、銀行から「ない」と言われたり、提出を拒否されると物証の確保が進まないということにもなります。よって、前記の証拠保全を利用するか、それ以前に当事者が銀行に任意で資料の提出を求めて確保するのも必要です。

為替デリバティブ取引で重要な物証は、為替デリバティブ取引を相手方中小企業に販売する際に銀行が作成した決済関係の書類です。銀行は為替デリバティブ取引を相手方中小企業の為替リスクをヘッジする目的で勧めていますので、中小企業になぜ為替リスクがあると把握したのか、具体的にはどのような為替リスクがあるのか、勧める金額が適切か、中小企業側に理解力、判断力はあるか、リスク管理能力、負担能力があるか等といった多数の項目がチェックされた上で、決済が下りています。その決済書類にどのようなことが書かれているか、それが事実と合致しているか等が後の裁判で非常に重要なってくるからです。

酷いケースですと、銀行担当者が事実をねつ造して決済書類を作成し、決済を取っていることもあります