デリバティブ訴訟の業界でも意見書等で著名な吉本佳生氏「家計を蝕む金融詐術の恐怖」(講談社)の中で、銀行がなぜここまでデリバティブ販売に力を入れていたかについて述べています。

すなわち、銀行は、為替デリバティブ取引を販売することで、契約時点で取引が終わるまでの全ての収益を一括して計上できることを指摘しています。

ここから銀行が期末になるとお願いベースで中小企業に為替デリバティブ取引を勧誘・販売している理由が分かります。

例えば、今期の支店のノルマ達成まであと5000万円の収益がどうしても必要だとした場合、一発逆転でノルマ達成ができるのが為替デリバティブ取引なのです。しかしながら、一度、契約してしまうと、契約がまだ続いていても、銀行には全く収益が発生しません。そのため、銀行は、翌期のノルマ達成のため、さらに為替デリバティブ取引を販売せざるを得なくなります。中小企業が、次々と為替デリバティブ取引を勧誘・販売されている理由もここからよく分かります。

結局、ここから言えるのは、為替デリバティブ取引の販売が銀行のノルマ達成のための手段でしかなかったということです。元々、デリバティブ取引はリスクヘッジのための金融技術であったのが、金融機関が収益目標を達成するための道具になっていたということです。中小企業のヘッジニーズと無関係に大量販売されていたことも同じ理由からです。

契約時点における為替デリバティブ取引の時価評価は、マイナス数千万円から数億円です。つまり、中小企業が為替デリバティブ取引をした瞬間に、前記のような巨額の含み損を抱えているのです。中小企業はデリバティブ取引を時価評価できませんし、その必要もありません。

しかしながら、為替デリバティブ取引を中途解約しようとすれば、時価評価分のマイナスを銀行に支払わなければなりません。契約した途端に巨額の含み損を抱え、中途解約しようとすれば巨額の違約金を支払わなければならないと知っていればさすがに中小企業も契約には応じなかったでしょう。

銀行は、契約してからしばらくは中途解約に応じていませんでしたが、解約損害金の金額を巡ってトラブルになるのを避けたかったからではないかと思います。

このように、為替デリバティブ取引は、プロである銀行が素人である中小企業をカモにして収益計上のための道具にしていたのが本質だと考えます。