Q1.先日、証券取引等監視委員会(SESC)からインサイダー取引の件で確認したいことがあるので、金融庁まで来て欲しいとの連絡がありました。行かなければいけないのでしょうか。もし、行かなかった場合、どうなるのでしょうか。

A SESCから呼び出しがあったということは、少なくともインサイダー取引であることが疑われていることは間違いありません。また、SESCは、質問調査、意見・報告徴取及び立入検査を実施することができるので(金融商品取引法177条)、必要な調査等に応じないと、6月以下の懲役若しくは50万円以下の罰金が科されることになります(同法205条6号)。よって、SESCからの呼び出しには応じなければならず、もしこれを正当な理由なく拒むと罰則が科される可能性があります。ただし、時間や間隔等の調整は可能です。

Q2.先日、SESCが突然勤務先会社にやってきて、私の携帯電話やパソコンを持って行ってしまいました。このような行為は問題ないのでしょうか。SESCが持って行った物は返してもらえるのでしょうか。

A SESCが捜索・差し押さえ令状を持参している場合は強制的に捜索・差し押さえができますので、同意がなくても押収できます。そして、その場合は取り調べが終わるまで普通は返してもらえません。他方、令状を持参していない場合もあります。先ほど述べた、立ち入り検査の場合です。あくまで任意での提出になりますので、提出を拒むことができます。また、任意提出の場合、返還を要求すれば直ちに返還してもらえます。

Q3.私は、SESCの呼出に応じて、現在取り調べを受けていますが、毎日8時間以上にも及ぶ過酷な取り調べを受けています。そのため、勤務先や家族にも多大な迷惑をかけており、また体調もすぐれません。このような場合、どうしたら良いでしょうか。

A SESCの取り調べは、任意であるにもかかわらず連日行われ、取り調べ時間も8時間を超えることが珍しくありません。インサイダー取引の疑いをかけられている人は普通の会社員であることが多いので、それだけでも非常に大きな負担となります。そこで、専門の弁護士から、SESCの担当官に、身元もしっかりしており、任意での取り調べは必ず応じる意思があることを伝え、取り調べのスケジュールを変更してもらったり、会社や家族の都合及び本人の体調も考慮したやり方に変えてもらうといったことが可能です。会社に通いながら調査に応じることも可能です。

Q4.SESCの担当の方に「弁護士に相談したい。」と伝えたところ、「弁護士に相談することはできない。そのような人はいない。」と言われました。本当なのでしょうか。

A SESCでの任意の取り調べであっても弁護士に相談する権利はありますし、場合によっては専門の弁護士に依頼して意見を述べてもらったり、書面を作成してもらうことも可能です。よって、弁護士に相談できないということはあり得ませんし、実際にそのような方もいらっしゃいます。

Q5.私はSESCの担当の方に正直に話しているのですが、担当官は「そんなはずはないだろう。」と言って聞く耳を持ってくれません。そのような押し問答が何時間も続いて疲れてしまいました。この場合、どうしたら良いのでしょうか。

A 専門の弁護士に供述書を作成してもらい、提出することで、同じ問答の繰り返しを防ぐことが可能です。それでもなお同様の質問を繰り返す場合には、抗議を申し入れることが考えられます。

Q6.SESCの担当官が私の供述調書を作成し、サインを求めてきたのですが、私の言い分と随分違っていました。担当官は「ニュアンスの問題だからサインしても問題ない。」と言っていましたが、本当でしょうか。

A 供述調書にサインしてしまいますと、課徴金手続でも刑事手続でも重要な証拠として扱われ、その内容が事実に反すると主張してもなかなか認めてくれません。よって、納得ができない調書にはサインすべきではありません。納得できる内容に改めてもらう必要があります。サインを拒否しても、それで帰らせてもらえないということはありませんし、サインをすることは義務ではありません。

Q7.SESCが勤務先会社や自宅にもやってきて重要証拠を押収していきました。このような場合、私は逮捕されるのでしょうか。

A 取引調査課による間接強制の場合は、押収ではありません。問題となるのは、特別調査課による強制調査の場合です。どちらかをまず確認しましょう。
一般的な刑事事件の場合、捜査機関が勤務先や自宅に強制捜査に入った場合、ほぼ同時に身柄拘束(逮捕)するのが一般です。ただし、インサイダー取引事件の場合、身元のしっかりした方が多いので、当初は任意での取り調べが行われるのが一般です。ただし、特別調査課が調査しているような、刑事事件に発展することを想定した事件の場合、強制調査の後捜査が進み次第、逮捕される可能性が高いと思った方が良いです。逮捕されてしまうと、面会や調査にも限界がありますので、そうなる前に、弁護士を通じて、嫌疑をはらす活動をすることが望まれます。

Q8.逮捕されてから後はどうなるのですか。

A 逮捕された場合、直ちに勾留請求され、勾留となるケースがほとんどです。勾留された場合、原則は10日間ですが、20日に延長される可能性が高いです。その後、別件で再逮捕されることがなければ、起訴されることとなります。 インサイダー事案で、容疑を認めない場合、面会禁止(接見禁止と言います)が付くことが多くあります。その場合でも、弁護士が面会することは可能ですので、捜査機関への対応の仕方の協議、家族との伝言の取り次ぎなどを依頼することになります。

Q9.刑事裁判はどのような流れで行われるのですか。

起訴後は、法律上は保釈が可能になります。事実を争っていない場合は、保釈となるケースが多いと考えられます。その場合には保証金がかかります。
起訴後、1ヶ月ほどで第1回公判が開かれますが、事実を争う場合には、公判前整理手続き等事前整理期日が開かれることがあり、その場合には第1回公判に至るまで、数ヶ月ほどかかるケースもあります。
認めている場合は、期日が1~3回開かれる程度で判決に至りますが、争っている場合には、それ以上かかる可能性が高いです。

Q10.刑事罰としてはどの程度になるのでしょうか。

A 犯罪の悪質性・計画性にもよりますが、前科がなく金額的にも多額でなければ、執行猶予が付くケースが大半であると考えられます。そのほかに、罰金が課された上、犯罪行為により得た財産の没収・追徴がなされます。

Q11.課徴金はどの程度になるのでしょうか。

A 課徴金は、以下の算定方法によります。
①会社関係者による売付け等の場合、(売付価格×売付数量)-(重要事実公表後2週間の最低値×売付け数量)
②会社関係者による買付等の場合、(重要事実公表後2週間の最高値×買付数量)-(買付価格×買付数量)
例えば、重要事実公表前に株価100円の株を1000株購入し、重要事実公表後2週間の最高値が300円である場合、(300×1000)-(100×1000)で20万円の課徴金となります。

Q12.金融商品取引法のうち、インサイダー取引の部分が改正されたそうですが、どのように変わったのでしょうか。

A 金融商品取引法のインサイダー取引に関する規定が,平成25年6月に改正されました。平成26年4月1日に施行される予定です。
改正の主な内容は,今までインサイダー取引規制の対象外だった情報伝達行為・取引推奨行為と,公開買付をされる側の会社関係者の取引が禁止され処罰の対象になったという点にあります。以下で詳しく説明します。
(1) 情報伝達行為・取引推奨行為の禁止
①情報伝達行為とは,他人に買収などの株価を左右する重要な事実を伝える行為(そのような行為をする人のことを「情報伝達者」といいます)をいいます。
②取引推奨行為とは,他人に「この会社の株を買ったほうがいい」と言って暗に株価が上がることをほのめかしたりする行為(そのような行為をする人のことを「取引推奨者」といいます)をいいます。
これらの行為を禁止することになったのは,従来,インサイダー取引をする人の中には,株式を発行する会社の人や証券会社の人だけでなく,会社関係者や証券会社の人から,買収などの株価が上がりそうな話を聞いた人(いわゆる「情報受領者」)も多くいたことにあります。
もちろん,情報受領者は,今までもインサイダー取引として処罰の対象でしたが,情報受領者にインサイダー取引をさせないためには,情報受領者だけではなく,買収話などを知ることができる立場にある人が他人に買収話などを伝えたりすることも取り締まる必要があったことから,今回の改正となりました。
もっとも,全ての情報伝達行為や取引推奨行為を規制対象とすれば,企業の通常の業務に支障が生じかねません。そこで,情報伝達行為や取引推奨行為が処罰されるには,
①情報伝達者又は取引推奨者に,インサイダー取引をさせる目的があったこと
②実際に情報伝達を受けた人や取引推奨を受けた人が,インサイダー取引をしたことの要件を充たす必要があります。
たとえば,上場会社の役員が家族に対して,単に自社の買収の交渉が進められている事実を伝えるだけでは,情報伝達行為として処罰されることはありませんが,家族にインサイダー取引をさせる目的で買収の事実を伝え,家族が買収の公表前に実際に株を売買した場合には,上場会社の役員は,情報伝達行為をしたものとして,処罰されます。
これらの情報伝達行為や取引推奨行為をした場合,
・課徴金については,取引を行った者の利得の2分の1に相当する額,
・刑事罰については,5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金又はこれらの併科となります。法人の代表者等が行った場合には,法人に対して5億円以下の罰金刑も定められました。
(2) 公開買付をされる側の会社関係者の取引規制
公開買付けとは,簡単に言うと,ある会社の経営権を取得したいと考えている人(以下,「公開買付をする人」といいます)が,市場外でその会社(以下,「公開買付をされる側の会社」といいます)の不特定多数の株主から株式を買い付けることをいいます。
実務上,公開買付のときに,株の売買をして儲ける人の中には,公開買付をする人だけではなく,公開買付をされる側の会社の人も多くいました。というのも,公開買付けの大半が,友好的買収の形で行われるため,事前に,公開買付される側の会社の人が,公開買付する人から公開買付について知らさている場合が多かったためです。それにもかかわらず,今まで公開買付される側の会社の人は,特別な場合を除いてインサイダー取引規制の対象ではありませんでした。
そこで,改正金融商品取引法は,公開買付をされる側の会社の人が,公開買付する人から公開買付の事実を伝えられて行う株取引についても,インサイダー取引の対象としました。
これにより,公開買付をされる側の会社の人も,公開買付されることを聞かされて,公開買付の公表前に株の取引することが禁止されることになりました。

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