金利スワップ連動型仕組債

仕組債は,東京証券取引所のような取引所で売買されるのではなく金融機関と顧客が相対で売買が行われる取引であること,外資系金融機関系列の発行体が金融工学の知識を駆使してあらゆる商品設計が可能であることは既に説明しました。

最近,我が国の某大手証券会社が一般顧客に勧誘・販売した仕組債は,「2年米ドル金利スワップレート」という指標に連動した仕組債でした。この「金利スワップレート」という概念は,我が国の一般顧客には全く馴染みがないと思いますが,金融機関が資金調達する際に参考とする指標であり,日本でも変動金利を固定金利化する(これを金利スワップといいます)際に「金利スワップレート」という概念が出てきます。「2年米ドル金利スワップレート」とは米国の金融機関が2年物の変動金利を固定金利化する際に指標とするレートだと思われますが,金融機関の資金調達に関わる部署であればブルームバーグのような情報提供会社の端末にアクセスして見ることはできるのでしょうが,一般顧客には全く必要のない情報であり,実際に一般顧客がこのような情報にアクセスすることは全くありません。

「金利スワップレート」は我が国におけるアベノミクス政策の第一の矢である大胆な金融緩和策の結果,縮小しました。米国でも,トランプ大統領は,就任以降,経済優先で金融緩和策を取っており,2019年から金利引き下げを何度も実施し,その結果,「金利スワップレート」も縮小しています。そして,同大統領は,新型コロナウィルス蔓延に対する経済対策として2020年3月に大幅な金利引き下げを実施し,その結果,「金利スワップレート」も大きく縮小しました。

前述した某大手証券会社が一般顧客に勧誘・販売した際に使用した資料を見ても,「2年米ドル金利スワップレート」が何なのか,いかなる要因によって変動するかが全く記載されておらず,「2年米ドル金利スワップレート」なる概念を全く知らない一般顧客からすると皆目見当もつかない商品だと思います。このような得体の知れない金融商品が私募債(特定の少数のみに販売)として最低単位5000万円という高額な金額で販売され,大きく元本棄損し,顧客が払い込んだ投資元金の大部分が発行体である外資系金融機関の懐に入り(厳密に言うと組成に関わった金融機関の取り分もあるので全額が懐に入るわけではありません),そのような商品を販売した証券会社に手数料が支払われていることを踏まえると,前述した某大手証券会社はデリバティブを使った外資系金融機関の「錬金術」の片棒を担いでいると言わざるを得ません。