高齢者に対する投資信託の勧誘 2011.3.13
高齢者の金融資産が狙われている
我が国における約1500兆円もの巨額金融資産の殆どが高齢者の下に眠っていることは周知の事実です。そしてこの眠っている巨額資産を狙って金融機関が「貯蓄から投資へ」「金融自由化」「金融ビッグバン」といった謳い文句で激しい争奪戦を繰り広げているのが我が国の金融市場の実情です。
その中でも、投資信託は、個別銘柄の選定といった煩わしさがなく、運用のプロが一定の利回りを実現するため運用する商品として高齢者にとって魅力的な金融商品に映るでしょうし、手数料の自由化やネット取引の急速な普及で株式委託手数料では稼げない金融機関にとっても、購入や乗り換えの度に所定の割合で手数料収入が得られるという点で手数料ビジネスの中心となっています。
高齢者へのハイリスクな投資信託の勧誘は、適合性原則違反の可能性あり
高齢者は、老後の資金を金融機関に預ける以上、元本安全指向が強いのが一般的です。少なくとも何千万円もの高額の資金を金融機関に預ける以上、一定のリスクを負担してでも相当なリターンを狙っている高齢者は殆どいないでしょう。一般的には、預金の延長上の感覚で勧誘されるままに投資信託を購入しているのが実情だと思います。
したがってそのような高齢者にハイリスクな投資信託を勧誘するケースは、それだけで適合性原則違反となる可能性が高いと考えます。
かつて投資信託は株式等の既存商品に比較すると安全指向向きの金融商品と理解されていましたが、最近出回っている投資信託は多種多様で一概には言えません。
投資信託のリスク度はかつて投資信託協会の定めたRR分類で行っていましたが、現在は株式会社格付投資情報センターのRC分類で行っています。しかしながら、このRC分類は全ての投資信託が網羅されているわけではないので、あとは運用対象や運用方法からリスク度を見極めるしかありません。
しかしながら、高齢者が目論見書を読んでも理解し難いと思いますので、専門家に見てもらうなどして確かめた方が良いでしょう。
顧客の理解力、判断力を遥かに逸脱する内容の金融商品の勧誘は適合性原則違反
また最近はレバレッジを効かせた不動産投信信託やデリバティブや仕組み債を使って運用する複雑な投資信託も一般に出回っています。そのような複雑な仕組みやリスクを理解しにくい投資信託は、高齢者の理解力、判断力を前提とすると、不適合な金融商品と判断される可能性があります。
判決例でも、顧客の理解力、判断力を遥かに逸脱する内容の金融商品の勧誘は適合性原則違反として違法であることが示されています。
特に銀行で販売されている「ノックイン投信」は高齢者向きでない
特に銀行で販売されているいわゆる「ノックイン投信」は、定期預金者向けの元本安全な商品として高齢者にも相当数が販売されていますが、商品内容やリスクの程度に照らすと決して高齢者向きの商品とは言えません。
まず「ノックイン投信」は、「ノックイン債」というデリバティブ取引を利用して組成した仕組債に集中投資する投資信託であり、実質的には「ノックイン債」です。
具体的には、オプションの売りを使って、オプション料の上乗せによる利回りの向上を図りつつ、オプションの売りに伴うリスクとして株価下落リスクを引き受ける商品です。高齢者が保有する金融資産の一部を「ノックイン投信」で運用するのであれば理解できますが、何千万円もの大事な老後の資産を銀行の担当者が勧めるままに「ノックイン投信」に振り替えてしまった場合は違法性が疑われます。
「ノックイン投信」は、過去のデータによると40%以上もの確率で「ノックイン」する可能性があり、「ノックイン」すると元本の40%以上の損失が発生する可能性があり、さらに途中換金が制限されて株価が下落する過程にもおいても損失を限定できないといったリスクを含んだ商品もあります。
このような高齢者がそのような高度な判断をすることが可能だとはとても思えません。
「ノックイン投信」については平成21年1月に国民生活センターが「ローリスクと勧誘されたが、想定外に大きく元本割れする可能性が生じた」と指摘して注意喚起を行い、また平成22年8月26日大阪地裁判決は「リスクに比較してリターンが大きいとは言えない」「元本保証を重視する投資家には適さない」「高齢で取引の経験、知識のない顧客には理解は困難」等と判断を示しています。
他にも銀行が販売する不適合な商品あり
さらに銀行は、系列の証券会社を通じて、多種多様な仕組み債をも高齢者にも勧誘、販売しています。
最近は、銀行の店舗内に証券会社のブースが設けられたり、銀行と証券会社との間で顧客情報が共用されているケースも少なくありません。
銀行の顧客は老後の資金を定期預金等で預けていることが多いのですが、それが何時のまにか仕組み債に変わってしまっているケースもあります。仕組み債には、為替系仕組み債とエクイティ系の仕組み債に大別されますが、どちらもデリバティブ取引を利用した商品の仕組みを理解することは容易でなく、また為替リスク、株価下落リスクといったリスクを負っており、かつなかには30年といった長期にわたり途中換金が原則として制限されるといった流動性リスクにも晒される商品です。
例えば、70歳を超える高齢者に対し、30年満期の仕組み債を勧誘、販売する行為は、満期償還時期が平均寿命を遥かに超えているという点だけで不適合だと考えます。
仕組債取引を巡る重要な判決
最近、仕組債取引を巡る紛争で、重要な判決が相次いでいます。
平成22年3月30日大阪地裁判決及び同年10月12日大阪高裁判決は、30年満期の為替系仕組み債について、商品内容の誤解があったことを理由に顧客側の錯誤無効の主張を認めました。
この種の金融商品取引を巡る紛争で、顧客側の錯誤無効の主張が認められたケースは極めて珍しく、最近の仕組み債訴訟の流れが明らかに顧客よりになっていることの一つの表れではないかと考えます。